建築家
妹島和世は、建築における透明性、軽やかさ、そして空間内での身体的経験の繊細な構成により、現代を代表する建築家の一人として国際的に認知されている。1956年に茨城県に生まれ、日本女子大学大学院を1981年に修了後、伊東豊雄建築設計事務所に入所。1987年に妹島和世建築設計事務所を設立し、1995年には西沢立衛と共にSANAA(Sejima and Nishizawa and Associates)を立ち上げた。彼らのパートナーシップは、現代建築の基盤を築く重要な役割を果たしてきた。
妹島の建築言語は、物質性を限界まで軽減し、自然と人工の境界を静かに撹乱するような特質を持つ。彼女の建築は、固定的な輪郭よりも、流動性や感覚のひらかれに価値を置き、建築と風景、建築と人々との関係性を繊細に編み上げる。その建築的感性は、透明性の高い円形プランを用いて美術館の公共性を再定義した《金沢21世紀美術館》(2004年)において最も象徴的に示された。その後もニューヨークの《ニューミュージアム》(2007年)、ローザンヌの《ロレックス・ラーニング・センター》(2009年)、そして最新作である《グラングリーン大阪の大屋根》(2024年)など、都市と自然、人と場所を再構成する建築を多数手がけてきた。
2010年、妹島は第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の総合ディレクターに就任。女性単独としては初の選出であり、「建築のもと人々が出会う(People meet in Architecture)」というテーマのもと、空間の関係性と参加性を重視し、アートをとりいれたキュレーションを行った。同年には西沢との連名でプリツカー建築賞を受賞。「普遍性と日本性を同時に宿す繊細な建築」と評された。
女性建築家としての妹島の存在は、性別を声高に語ることなく、建築界における構造的なジェンダーの壁に静かな風穴を開けてきた。彼女はこれまで慶應義塾大学やミラノ工科大学、ウィーン応用美術大学など国内外の大学でも教鞭を取り、現在は東京都庭園美術館の館長も務める。
彼女の人間を中心に据えた設計への長年の取り組みは常に進化し続け、多くの場合、自身の手がけるプロジェクトを取り巻く環境やコミュニティから着想を得ている。近年のインタビューでは「建築は自然に従属するのではなく、自然からそっと延長されるもの」と語り、自然との調和を基盤とした設計姿勢を深めている。《ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館増築》(2022年)や《台中緑美図》(2025年)では、建築が風景のように振る舞う可能性を探求している。
妹島和世の建築は、空間を占有するのではなく、むしろ空間の「余白」として存在し、人々の生活と風景の間を媒介する静かな装置として、私たちの想像力を広げ続けている。