日本人写真家
長島有里枝は武蔵野美術大学在学中の1993年、実家で家族とヌードで撮影した〈セルフ・ポートレイト〉のシリーズで「アーバナート#2」展パルコ賞を受賞し、一躍注目を集めた。2001年、写真集『PASTIME PARADISE』で第26回木村伊兵衛写真賞を受賞。2010年には、自身の幼少期をモチーフにした短編集『背中の記憶』で第26回講談社エッセイ賞を受賞し、写真以外にも活動の幅を広げた。2020年には、1990年代の日本の女性写真家をめぐる言説をジェンダーの視点から検証した『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』を刊行し、多くの反響を呼んだ。
デビュー以来、長島は社会における「家族」や「女性」のあり方への違和感を作品で問い続けてきた。ラディカルさとしなやかさをあわせ持つ、パーソナルな視点にもとづいた長島の表現は、若い世代を中心に支持され、近年、国際的にも評価が高まっている。
2017年、公立美術館で初となる個展「長島有里枝 そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」を東京都写真美術館で開催。初期のセルフ・ポートレイトや家族をテーマにした連作から、1990年代のユースカルチャーをスナップショットで切り取った〈empty white room〉、アメリカ留学中に制作した作品、一人の男性が出会いを経てボーイフレンドとなり、夫、そして、父親となるまでの姿を描いた〈not six〉、2007年にスイスのアーティスト・イン・レジデンスで滞在制作をした植物の連作、女性のライフコースに焦点を当てた新作などが一堂に展示され、ミッドキャリアでの回顧展的な個展となった。
2018年、「作家で、母で つくる そだてる 長島有里枝」展がちひろ美術館・東京で開催。2019年には、横浜市民ギャラリーあざみ野での個展「あざみ野フォト・アニュアル 長島有里枝展 知らない言葉の花の名前 記憶にない風景 わたしの指には読めない本」に続き、群馬県立近代美術館で竹村京(1975年–)との二人展「まえ と いま」が開催された。
2020年、第36回写真の町東川賞国内作家賞を受賞。2021年にはゲストキュレーターを務めた展覧会「ぎこちない会話への対応策—第三波フェミニズムの視点で」が金沢21世紀美術館で開催。自身を含む1990年代以降に活動を始めた10名の作家を取り上げ、フェミニズムの視点から新たな作品解釈の可能性を見出した。
2023年には、「ケア」について学びあうプロジェクト「ケアの学校」を名古屋のMinatomachi POTLUCK BUILDINGで開催した。他者と自身のための「ケア」について考え、その実践を行うために、作品を展示するだけではなく、会場を自身のスタジオとして公開。トークや読書会、発表会などさまざまなイベントを通して、地域の人々や来場者と交流を重ねた。また、同年、連作小説集『去年の今日』も刊行された。
2024年には、国立西洋美術館で開催されたグループ展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」に参加。1959年の開館以来初となる現代美術の展覧会で、同館のコレクションと「ケアの学校」がリンクするインスタレーション作品を発表した。同年、フランスのアルル国際写真フェスティバルで開催された、日本の女性写真家をテーマにしたグループ展「I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now」にも参加するなど、活発に活動を続けている。
「19世紀から21世紀の日本の女性アーティスト」プログラム