日本人写真家
1992年より写真作品の制作を始める。1994年に日本大学芸術学部写真学科を卒業。1995年に写真作品《創造の記録》(1995年)で第5回写真「3.3㎡(ひとつぼ)展」グランプリを受賞。1996年に写真作品《潜る人》(1995年)で「第5回写真新世紀」年間グランプリを受賞。1997年に個展「フジヤマ」(P3 art and environment、東京)を開催。1998年アジアン・カルチュラル・カウンシルの個人フェローシップによりニューヨークに滞在。1999年ライクスアカデミー (アムステルダム) にゲストアーティストとして招聘される (1999/2000年) 。2002年、第52回芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)を受賞。2004年、個展「飛ぶ夢を見た」(原美術館、東京)を開催。2005年ポーラ美術財団のフェローシップによりドイツ及び東アフリカに滞在。2009年二人展「光 松本陽子/野口里佳」(国立新美術館、東京)を開催。2011–2012年個展「光は未来に届く」(IZU PHOTO MUSEUM、静岡)を開催。2014年個展「父のアルバム/不思議な力」(Gallery916、東京)を開催。2016年以降は沖縄県那覇市在住し、作家活動を行っている。2022–2023年にはミッドキャリアを総括する個展「不思議な力」を東京都写真美術館で開催した。
野口里佳は1990年代に水中や高地、宇宙といった未知の領域と人間との関わりをテーマにした作品を発表し、日本の新しい写真作家として注目された。《潜る人》(1995年)は野口が写真家として広く認められるきっかけとなったシリーズである。ある日、東京湾岸でたまたま見かけた潜水服の人物を追いかけて撮影したこのシリーズには、日常の延長にある未知の領域との出会いという作家の関心とテーマ性が集約されている。続いて発表した《フジヤマ》(1997年–)もまた初期の代表作で、この作品は宇宙に最も近い場所をめざして富士山を登るシリーズである。野口の作品は基本的に、自身の個人的な関心の対象や出来事を探求する行為や移動によって成立する。写真は野口の私的な発見や気づきのプロセスを記録したものである。近年の写真作品《不思議な力》(2014/2022年)、《さかなとへび》(2021年)あるいは映像作品《アオムシ》(2019年)、《虫・木の葉・鳥の声》(2020年)においても、その作風は共通している。野口の写真・映像は、日常の小さな謎あるいは滞在した土地で出会った物事をきっかけとして、身辺的な世界の豊かさを提示する。目に見えないものへの感受性や独自のユーモアを含んだその表現は、鑑賞者の感覚や想像力をも解放する力を持っている。
野口の作品では、シリーズごとに使用するカメラがその作品を特徴づける大きな要因となっている。パノラマカメラ、胃カメラ、水中カメラ、ピンホールカメラ、実父の遺品のハーフサイズ35mmカメラといった多様なカメラをその時々に用いる撮影スタイルについて、野口はインタビューの中で「カメラに導かれて色んな世界に連れて行ってもらっている感じ」だと語っている。
パブリックコレクションは東京国立近代美術館、国立国際美術館、東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、グッゲンハイム美術館、ポンピドゥ・センター、ロサンゼルス現代美術館などに収蔵されている。「リボーンアート・フェスティバル2019」(石巻市ほか、宮城県)での滞在制作や2020年「西2丁目地下歩道映像制作プロジェクト」(札幌文化芸術交流センターSCARTS、札幌)でのパブリック・プロジェクトといったコミッションワークも手がける。
「19世紀から21世紀の日本の女性アーティスト」プログラム