日本人写真家
オノデラユキは桑沢デザイン研究所ファッションデザイン科を卒業後、独学で写真を始め、それが彼女の主な表現媒体となった。1991年に第1回キヤノン写真新世紀賞を受賞した際、作品が「謎めいていることは貴重である」と賞賛される。オノデラの写真は時に非現実的、謎めいていて曖昧とされることもあるが、写真の多層的探究においてより重要なのは、シュルレアリスムの「dépaysement(見当識障害)」の手法にも似た、多種多様なオリジナルから異なる文脈を混ぜ合わせ挿入するという奇妙な行為ではなく、写真が変容し再構成することで、物体の質感や印象を生み出す、ある種の「身体性」である。
オノデラがパリに移り住んだ1993年、パリのケ・ド・ラ・ガレではクリスチャン・ボルタンスキー(1944–2021年)の個展「Dispersion」が開催されていた。展覧会のタイトルにもなっているこの作品では、ボルタンスキーがホロコーストのモニュメントとして、一部が破れた大量の古着を積み上げていた。この作品を見に行ったオノデラは、袋を担いでこれらの大量の古着を持ち帰り、彼女の代表作「古着のポートレート」(1994年)を生み出した。このシリーズは、古着が正面に立ち、その背後に空と雲が浮かんでいるように見える作品である。画面全体を覆う灰色の色調は、前面と背面のコントラストを鮮明にし、この服を着ているはずの人物の存在を想起させる。前面では、布のはっきりとした手触りの質感が、そこにいる人物の不在と存在の両方を想起させ、背面では、ぼやけたイメージと遠くの空が、その人物の向こうに広がる雄大な時間の流れ、あるいはその人物の肩に蓄積された計り知れない時間感覚を暗示している。オノデラによると、人影が空中に蒸発したように感じるまで待たなければ撮影はできなかった。この過程は写真を、大量に積み上げられた古着の中から人物一人ひとりを蘇らせると同時に、見る者の知らない記憶だったとしても、その痕跡を呼び起こす装置として使おうと試みている。物体の質感が写真にどういう写るか理解してさえいれば、異なる種類の身体性をひとつの写真に組み合わせることができる。ロラン・バルトが言ったように、写真は本質的に「あった」ものを指し示し、反復するものであり、それは何かをありのままに描写するのではなく、「失敗」として別の形で伝わってくる。オノデラはこの方法論を多くのシリーズに適用し続けている。「真珠のつくり方」(2000–2001年)では、カメラに設置されたガラスのビー玉が写真に影を作り、暗闇に集う人々の頭上に奇妙な白い物体が浮かんでいるように見える。「液体とテレビと昆虫と」(2002年)では、テレビ放送から集められた昆虫の画像と、その昆虫の影に似た、こぼれた絵の具のような液体の画像が並置されている。「Transvest」(2002年–)では、雑誌や新聞から抜粋した既存のイメージをフォトモンタージュし、舞台のような逆光でシルエットに変えている。「11番目の指」(2006年–)は、フォトグラムの手法で貼り付けたかのように、レース模様の穴のあいた紙で人の顔を覆い隠し、撮影されたシーンとは別の写真のレイヤーを作り出している。「決定的瞬間のための習作」(2015年–)では、歪んだペットボトルからこぼれ落ちたように写真にアクリル絵の具が塗られ、透明で、光の反射によってのみその存在が明らかになる写真と組み合わされている。
写真にさまざまな身体性を挿入することによって得られる、通常の写真の動作に対するこうした創造的な歪みに加え、「Muybridge’s Twist」(2014年–)で示されている通り、オノデラの作品で出力された画像の大きさも、大小問わず重要な機能を果たす。オノデラは19世紀後半に走る馬や歩く人の動きを連続して捉えたイギリスの写真家エドワード・マイブリッジ(1830–1904年)を引き合いに出しながら、人体や動物のさまざまなパーツをコラージュし、人がねじりを踊っているようなイメージを作り上げた。300×200cmを超える人体よりも大きなサイズで出力された作品は、不気味に溶け合ったパーツが、人物の連続的な動きというよりも、ねじれた彫刻のような印象を与える。イメージを組み立てる際には、ファッション写真から引用した原画を拡大し、最終的な作品と同じような大きさで切り抜き、コラージュする。そのサイズは見る者に圧倒的な迫力を与えるとともに、写真にまつわるもうひとつの身体性が最終的な出来栄えに影響を与えるという点で重要である。
2022年「La clairvoyance du hasard(ハサードの透視能力)」(Centre de la photographie de Mougins[ムージャン写真センター]、フランス)、同年「ここに、バルーンはない。」(リコーアートギャラリー、東京)など、 最近の個展でも新シリーズを発表し続けている。その他、主な個展に2015年「Yuki Onodera: Décalages(オノデラユキ:間隔)」(ヨーロッパ写真館、パリ)、2014年「森の中の千の鏡」(La Maison d’Art Bernard Anthonioz[ノジョン・アートセンター]、ノジャン=シュル=マルヌ、フランス)、2011-2012年「Gravity-defying photography(重力を感じさせない写真)」(ニセフォール・ニエプス美術館、シャロン=シュル=ソーヌ、フランス)、2010年「オノデラユキ:写真の迷宮へ」(東京都写真美術館)、2010年「オノデラユキ」(ソウル写真美術館)などがある。
2011年には文部科学大臣賞、第27回東川賞グランプリを受賞。2006年にニエプス賞、2003年に第28回木村伊兵衛賞を受賞。
「19世紀から21世紀の日本の女性アーティスト」プログラム